Songs in the Key of Z
アーウィン・チュシド:著
喜多村純:訳

(map original : mb-1)
2,800円(内税)
リリース:2006年12月10日
版型:四六判(128×188)/上製/豪華ハードカバー仕様
ページ数:400 ページ


 “アウトサイダー・ミュージック”って、何? 天才の音楽? ドラッグで人生を踏み外した人の音楽? 心に痛みを持った人の音楽? キ●ガイの音楽?……いや、そのすべてが間違っていて、そして、すべてが正しい。シド・バレットやキャプテン・ビーフハートのように、未だロック・レジェンドの中に生き続けている輩もいれば、シャグスやダニエル・ジョンストンのように、ある者は笑い、ある者はその音に涙するアーティストもいる。ハリー・パーチやロバート・グレティンガーのように時代を経てついに評価された現代音楽家もいれば、いまだ失業保険で食いつないでいる名もなき天才たちもいる。ただ言えるのは、彼らの音楽には、いわゆるポップスや商業音楽のマナーでは永遠に辿り着くことができない、とんでもない謎と喜びに満ちあふれているものなのだ。もちろん、行き着く先は、天国か、もしくは地獄のどちらかだけど、ね。
 本書は、ここ日本はもちろん、世界的に見てもまったく顧みられることがなかった、そんなアウトサイダーなアーティストたちのリアル過ぎる“ドキュメンタリー”であり、世界初のアウトサイダー・ミュージック“大辞典”だ。ここに掲載されている音楽家のほとんどは、多くの人が“音楽としてすら認めない”ヘッポコでスットコどっこいでどうしようもないもの。たしかにその感受性は決して間違っているわけではないけれど、この本を読んだ後には、きっとそれらの音が
違って聴こえてくるだろう。本書は、アメリカ秘境音楽の墓堀人・アーウィン・チュシドとそのバカげた仲間たちが、十余年にわたりアーティストや関係者に直接インタビューを施し、無駄な伝説を剥ぎ取ると共に、想像を絶する真実を見出したとんでもない書籍なのだ!
 例えば、最低(最高)音楽の頂、シャッグスのレコーディング・エンジニアを務めた男の言葉はこんな感じ。
 
 (略)連中が演奏を始めた。俺たちは……ミキシング・ルームのドアを閉めて………………床の上で笑い転げたさ。もう、おかしくて転がり回ったもんだよ! ものすごかった。自分たちで何やってるのか分かっちゃいないのに、(彼女たちは)いいと思ってるんだからね。完全に別世界にいるんだよ。それにね、牛みたいな匂いがするんだ。農場のすぐ外の香り。臭いってわけじゃないけど──本当に牛そのものの匂いなんだ!」

 いやはや……なんとも。しかし、これらアウトサイダー・ミュージックのアーカイヴは、本書籍だけでなく、アメリカ国内では静かに広まっている様子。たとえば、ダニエル・ジョンストンのとてつもないドキュメンタリー映画『悪魔とダニエル・ジョンストン』(2006 年10 月日本公開)がサンダンス映画祭で最優秀監督賞を受賞、またヤンデックやロキー・エリクソン(13th フロア・エレヴェーター)のドキュメンタリー映画も完成&公開。そして、ついに真打ちシャグスのドキュメンタリーが撮影開始されたとの話も! そしてもうひとつ。悲しいことに、シド・バレットをはじめ、本書に掲載されているアーティストが、ここ数年、まだまだ多くの謎を残したまま亡くなっている点。死後に再評価が与えられる前に、伝説ではない事実が伝えられることが何よりも望まれる。
 全5万字を越える細やかな註釈は、それだけでも資料価値アリアリの本作。“流行の音楽”vs“時代遅れの音楽”、“良質な音楽”vs“悪質な音楽”なんてつまらないジャンル分けでは、人生通しても永遠に聴こえてこない、最低で最高の音楽ドキュメンタリー書がここに。いや、なによりもとにかく、とんでもなく面白いンスから!

●掲載アーティスト:シャグス、シド・バレット、ダニエル・ジョンストン、タイニー・ティム、キャプテン・ビーフハート、ハリー・パーチ、ヤンデック、ザ・レジェンダリー・スターダスト・カウボーイ、ワイルドマン・フィッシャー等、全20 章に加え、その他の偉人たち約50 人。